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小さな体を抱き上げて、「あれが火竜」「その下は雷竜」と説明する少年の言葉に耳を傾けながら、タイルの上部に描かれた波のような雲が自身と同じ【風竜】だと知った。
顔もない。体もない。竜族の中でも、唯一、実体の無い存在だ。宙に浮くことも出来なくなった今、自分が竜と呼べるのかさえ疑わしい。ならば人間として今後は生きていけるのだろうか……
「そんなに真剣に見つめて、この絵が気に入ったか?」
「また見にきていいの?」
「まさか、ここはお前のような子どもが自由に出入りできる場所じゃない。今日が最初で最後、しっかりと見納めておけ。竜なら俺がいくらでも描いてやる」
「……えー」
「……なんだ、その不満げな『えー』は」
レイもアルトもトカゲじゃない、その反論は言ってはいけない気がして渋々言葉を呑み込んだ。
手を引かれて博物館の外へ出ると、空は夕暮れ、オレンジの空に藍色が薄くかかっている。昨日とは違い、日が暮れても誰も呼びに来てくれないことは知っているが、昨日と変わらず、自分の手を握る存在が今日もいる。
「マナ、マナっていう」
「マナ? あぁ、名前か。そういえぱ聞いてなかったな。俺……いや、私はクラウン・アル・カディブ。この国の王子だ」
「へぇー」
「『へぇー』じゃない、阿呆!」
──バシッ
「!?」
兄とは違う乱暴な手。屈してなるものかと、マナは目一杯、噛み付いた。竜歯は今も、風竜の口腔内に残っている。
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