プロローグ

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拓けた土地から木々が生い茂る森へ入り、森の中には湖があった。湖には葉を付けない無数の木が突き出し、水辺から覗き込めば湖底に沈む幹の根元が目視できる。 木は枯れているのか、生きているのか。外気に触れている幹と水中の根元では、まるきり違う植物のように色も形も異なっている。 「……すごい透明度ですね」 「何百年も前に起きた地震の影響で地盤が崩れ、陥没した地面に湧き水が溜まって出来た湖だ。よってこの湖に魚は生息しない」 「……湧き水?」 「迂闊に近付かない方がいいぞ、見かけよりも深い」 聞き慣れない声に顔を上げれば、そこに立っていたモノは人と違った。 トカゲのような体、背中に生えた翼。皮は硬く、鋭利な牙と爪が火竜最大の特長。皮膚の色は墨色、たてがみは赤。体長は5メートルほどの成体だ。 ここに来るまでに読んだ個体情報と一致する竜は1頭──…… 「……レイ」 その名前を呼ぶと同時に、火竜は人型へと姿を変えた。瞳の色を変えることは出来ないが、見た目は褐色の肌をした30代成人男性。背丈はカイジより頭1つ分高く、竜が首に巻いていた1枚布を器用に体に覆った。 目に野性的な鋭さは残っているが、恐怖心は感じない。口元に浮かんだ笑みは、むしろ友好的にとらえられた。 「要望通りの若手だ。体力があるかどうかは~……この細身で疑わしいが、この先、国の一端を担う優秀な人材であることは間違いない。レイ、君からも色々と教えてやってくれ」 「本日付で観察官に着任したカイジです、よろしくお願いします」 「火竜のレイだ。よろしく頼む」 人型の竜族は美しい容姿を持つと噂に聞いていた通り、レイは男でも見惚れてしまうような男前だ。交わした握手に感動を覚え、その力強さに思わず赤面した。
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