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「待って待って、取り上げられた紅の変わりにはならないけど」
持ち出した小さな器の中には赤い顔料。それを手の甲で練ってから、中指でケリーの唇にトントンと色を置く。
決して主張しない自然な赤。16才のケリーに似合う健康色だ。
「甚三紅、悪くない」
主の評価を得られ、ケリーの表情がこの日1番華やいだ。
「ありがとう、マナ! また遊びに来るわね!」
「うん、待ってる!」
「来んでいい、待たんでいい……まったく」
キヌヅカが屋外の作業場に視線を巡らせば、職人達の手元が速度を上げる。少女達の会話を盗み聞き、手元が作業がおろそかになっていたのは明らかだ。
その原因の1人は指示される前からキヌヅカが用意したカゴを背負い、今まで作業していたスペースをさっと片付けた。
「何が必要ですか?」
「シロツメの葉を摘んできてくれ。王女様のおくるみを明日、染色する」
「シロツメですね、なら牧場からもらってきます」
「頼むよ」
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