二章/フェアリーリング

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「まったく……珍しい虫でも見つけたか。せっかくのフェアリーリングが今の動きで台無しじゃないか」 「確かに虫っぽい翅でしたけど……」 「まるで狩りをする猫のようだったぞ。あの瞬発性、人間にしておくのには勿体ないくらいだ。今日からお前をキティとでも呼んでやろうか」 「ならば私も天才画家様とでもお呼びしましょうか。天才画家様、執務室にお戻りにならなくてよろしいのですか?」 「……そういう口の利き方は改めよ。他の者に聞かれたら、鞭打ちだけでは許されんぞ。その時はもちろん、俺も庇う気はない」 出会ったばかりの頃は敬語も知らなかった。偶然見つけたクラウンを名前で呼びかけた途端に、彼の身のまわりにいた従者にひどく咎められたことがある。 体が吹き飛ぶほど頬を平手で打たれ、体を床に押さえつけられた。鼓膜に響く怒号、蘇るカイジに翼を切り落とされた瞬間の記憶。泣こうが喚こうが大人達は容赦なく、あの時はクラウン自身も必死になって止めに入った。「やめてくれ」「許してやってくれ」……制止しながら泣いていた。 お互いに思い出したくもない苦い記憶だ。 王子と下女、本来ならば言葉を交わすことも出来ない身分格差であるが、1度相手に見せた顔を簡単に変えることは出来ない。第三者がそばにいない場では、互いに憎まれ口をたたき合う仲だ。
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