二章/フェアリーリング

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「また新しく何か染めるのか」 「明日、先生が王女様のおくるみを染色するそうです。どうせならもっと綺麗な色で染めてあげればいいのに」 「雑草のシロツメはどんな環境でも根を張る強い植物だ。苦みはあるが食料や煎じ薬にもなり、植物の中でも庶民には特に馴染み深い。国民に寄り添い、根強い国土発展を願う気持ちがシロツメには込められている」 「王子様もシロツメのおくるみに包まれていたんですか?」 「もちろん、王族として生まれた者に贈る習わしだ。俺の時もキヌヅカが染めてくれたんだぞ」 「さすがだなぁ、うちの先生は」 マナが染色作業に携わることはないが、キヌヅカの技術の腕は他の職人達と比べても別格だ。出来上がった布は染めムラがなく、染液からは想像できない色を生み出す。老いても色に対する探究心は強く、決して妥協を許さない。 「先生」と呼ばれるキヌヅカの下について手伝いができることは、今のマナにとっては唯一の誇りだった。 「俺の大事な妹だ、お前も丁寧の仕事をしろよ」 「もちろん、仰せの通りに」
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