プロローグ

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「……初めて触りました……竜に」 保護区域に立ち入らない限り、触れるどころか目にする機会もない竜。一般人は研究者が残した文献を読んでその姿に思いを巡らせてきたが、実物は想像していた以上に温かい手をしていた。 「手が温かいのは……レイが火竜であることと関係しているんですか?」 「火竜に限らず竜の平均体温は人より高いらしい。氷竜のシヴァナでさえ、おそらく君の手より温かい」 「人の子と同じように仔竜の体温は更に高いぞ。アルトとマナは今どこに? シヴァナと一緒か?」 「あぁ、ツリーハウスの中に」 聞けばアラサンドラは野外、仔竜2体は観察官らとともに研究施設、レイとシヴァナは森の中のツリーハウスで普段は寝起きしているのだという。 4本の樹木を支えに作られたツリーハウスは、まるで理想の秘密基地のようだった。傾斜の屋根に丸い窓。翼を持つ者で無ければ決して上がることの出来ない高い位置だ、地上から小屋に通じる螺旋状の階段は、おそらく訪ねてきた観察官が使用するためのものだろう。 「現代の竜窟ですね……」 思わず漏れた言葉に、レイは笑みを返した。 竜窟、すなわち竜の住処。古代の竜は種族ごとに好む住処で暮らしていたようだが、種族ごとの群れを持てない現代では、種族の垣根を越え、“竜族”といいくくりで生活しているのかもしれない──……という見解は、後に下方修正することになる。 待っていたのは色白の美女、氷竜・シヴァナだ。 人並み外れた、息を呑むほどの、神秘的な、他がかすんで見える……口に出すのも恥ずかしいような口説き文句が頭の中を駆け巡ったが、美しさに目を奪われるという初めての経験に声も出なかった。 白く滑らかな肌。宝石を埋め込んだような深みのある青い瞳。薄い唇に赤みはないが、不思議と血色が悪いようにも見えない。涼やかな表情とはギャップのある豊満な胸元はザックリと開かれ、二十歳になった若者は罪の意識から視線を外した。
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