プロローグ

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彼女の膝にぴたりと寄り添うのは、萌黄色の仔竜、アルトだ。 レイよりも深みのある紅い瞳。額に突き出た小さな2本の角。背中に生えた翼は小さく、でっぷりとした幼児体型を浮かばせるにはまだ頼りない。白いクッションにしがみつきながら、コツコツコツコツ奥歯を鳴らして仲間に危険を知らせる警告音を発しているが、それさえもカイジにとっては生で聞く感動を覚えた。 「アルトはこんなに小さかったんですね」 「アルトもマナもサザンクロスが出生の竜だ。アルトは3才、マナは10ヶ月。本当に人間の子どもと変わらないよ」 「生まれたばかり……着任早々、赤ちゃん竜と関われるとは思ってもみませんでした」 「ピギッ!?」 「えっ」 何気なく指をさした瞬間、過剰反応したアルトの口から炎が吐かれた。それを顔面に受ける。熱さは一瞬。それよりも眩しさに驚き仰け反った顔は、煤で汚れて黒くなった。 「注意その1、仔竜は非常に警戒心が強いため、骨音が鳴っている時は迂闊に近付かないこと」 「え」 「注意その2、竜族は仲間意識の強い生き物だ。雌が雄を、親が子を守ると同様に年長者が年少者を守る習性が強い。間違っても奪う行為はしてはならない」 「え、奪う?」 コツコツコツコツ……警告音を再開したアルトは、組み敷いていたクッションを抱き直した。それは白に混ざる鈍色の毛。アルトが頬を寄せれば顔半分が埋まる。雲のような、綿のような……それが5ページ目に描かれていた毛玉だと気付く。 毛玉ごとアルトを抱き上げたのはレイだった。短い腕を首に回してしがみつくのはアルト。腕の中から逃れようと、ふわりと浮かび上がったのは──…… 「火竜のアルトと、風竜のマナだ。カイジ、君にはこの子たちの育成を任せたい」 「……風竜」 毛玉の中からパチリと目が覗いた。人懐こい円らな瞳。世界で1番愛おしいものだと抱いた印象は、最期の時まで変わることはなかった。
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