三章/他国の竜

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仕事を終えて向かった先は、普段から染色の原料を採集する山だ。山は工房の裏にあり、多様な野草が自生している。 大木に登り、枝分かれした枝を背もたれがわりしながら1人読書をして過ごす時間は、日が暮れたことにも気付かず集中して過ごすことが出来た。 地上からも身を隠せ、風が吹くたびに生い茂った葉がこすれあう音が耳心地良い。書物の中には明らかに竜に対する悪意に満ちた内容で心が痛むものもあったが、『それは違う』と、本に手を置き、姿なき著者へ静かに語りかけた。 今、世間では恋愛小説が空前の大流行している。王子と姫の王道モノもあれば、王子と庶民の禁断愛など、結婚適齢期に入るクラウンをモデルにした話が特に多い。古書堂の店主にも過去に書かれた類似の恋愛小説を薦められたが、マナ自身、他人の恋も自分の恋も興味がない。 今は何より、書物に記された風竜のように風を自由自在に操るにはどうしたらいいか……それが1番の興味だ。 幼い頃は2本の指を擦り合わせるだけで小さなつむじ風を発生させることが出来た。どうやったのか、なんて風竜本人が分からないのだから、書いた人間が知るはずもない。 それでも諦めきれず、指を擦る、手を回す、大きく息を吸い込んで「ワッ!」と声を出してみるが、目の前の葉はわずかに動くだけだ。
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