プロローグ

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竜族が滅んだ本当の理由を人は知らない。 人間との間に諍いが生まれたことは事実だが、自然を味方にする竜族を相手に人が敵うわけがないのだ。 古代の文献に残された竜族の記述は多くの学者が解読に挑み、掘り起こされた竜骨の研究、調査も進められた。その結果、見つかった竜族は火竜の割合が半数を占め、土竜と水竜で4割を占める。 種族同士の縄張り争い。竜がもたらした甚大な災厄。竜殺し、ロマン・ロランのエピソードも、親から子へ語り継がれるほど有名な昔話だ。 竜の凶暴性、残忍性が露わになる文献で残されている一方で、同等の数……あるいはそれ以上の内容を占める逸話は風竜に関する記述だった。 雲よりも遥か上空で暮らす風竜は、同じ場所に一時として留まらない。下界に下りてくることは稀であり、他の種族と交わることもない。 風竜を捕らえることは風を掴むことと同じ、つまりは不可能。飛行能力に関して言えば、同じ竜の有翼種と比べても別格だ。 台風や竜巻といった自然の猛威を風竜と結びつける記述も当然残されているが、人間と風竜の関係は他の竜族とはまた違う。 風で髪を乱すのは、子どもの風竜のいたずら。子ども達はつむじ風を起こして遊び、植物の変化や人間の反応を見て楽しんでいる。季節は風竜とともに移り変わり、風竜とともに去って行く。春先に吹く花散らしの風、夕立を生む夏の積乱雲、身を切るような秋の木枯らし、1年で最も空気が澄む冬の夜空……詳細は未だに解明されていないが、そのすべてに風竜が関わっているとされた。 「昔の人々が風竜とのエピソードを多く残していることは事実だが、これまでに風竜の竜骨が見つかることはなかった。それ故に風竜は人間が作った“空想上の竜族”とされた時期もあったが、老竜アラサンドラが風竜の存在を証言したことから、その存在は確定された」
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