三章/他国の竜

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思わず本音がこぼれたのはお互い様だ。 本をめくり始めたクラウンの表情は、熱く竜を語っていた少年時代の眼差しとはまるで違う。肯定的な言葉はもちろん、竜に関係する言葉自体を久しぶりに聞いたように思える。 竜に関連する本を隠れて読んでいたところで不都合は何も無いはずだが、クラウンが黙って本を読む時間はマナにとって居心地が悪いものだった。 「5年前、隣国クリニア皇国は」 「え」 「……人との共存を目指す竜の保護を止め、保護していた雌を使って繁殖に力を入れるようになった。それまでも人間を使って強引な交配を続けていた国だが、今後、純血の竜が増えれば我が国への脅威は増す」 「……」 「今はまだ騎虎がいるノアには迂闊に手を出せないだろう。しかし、5年後、10年後……竜の繁殖に成功したクリニアは、近隣諸国を掌握する大国になることは間違いない。対抗する力すら持たない国は、既に資源を搾取される隷属関係にある」 「……あの……難しい言葉は、使わないで下さい。何の話をしているんですか?」 「憧れていたものを討ち滅ぼす……それが俺に課せられた宿命らしい」 「……、……」 クラウンが自分が産まれた祖国の話をしていることは分かる。その中に出てきた“保護していた雌”というのは、シヴァナのことだ。 そこまで理解して、マナは1度考えを止めた。でなければ、唇の震えが止められそうに無い。死に別れた、生き別れた仲間の顔を思い出してしまったら、その名前を口に出してしまいそうだ。
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