《 三 》

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 乱れた吐息が占める寝室で、女と抱き合ったまま彼は思った。  少なくとも女の声は聞こえてしまっているだろう。女の激しさに昂りを抑えるのがひどく難しく、漏らしてしまった自分の声も届いているかも知れない。  そう思うと妙な興奮を覚え、果てた後なのに気分が高鳴った。  女がシャワーを浴びて彼の部屋を後にすると、彼もシャワーを浴び、煙草を飲みにベランダへ出た。もう、こんな時間なのかと思ったのは、いつものように綺麗な所作で彼女が煙草を飲んでいたからである。  数十センチしか離れていない相手のベランダより、心地の良い石鹸の香りがして彼女は言った。 「お風呂上がり」  風呂上がりの彼はこざっぱりしているから、外行きの顔と変わらない。  彼は素知らぬ顔で答える。 「そう、ひと段落ついたらから、忘れる前に入った」 「先生は本当にすぐ大事なことを忘れる」  そうして呆れたように彼女は笑った。 「大事な時には大事にしてるでしょう、俺」 「そうね、先生は絶対に自分の綺麗を汚さない」 「汚しても綺麗な儘のモノを汚すのは嫌いではないけれど」  例えば体温、と彼は思った。自分の中に残る彼女の美しい声の響きを汚すように、先程他の女を抱いた。無意識に彼女を汚したくて、彼はきっと薄いのかもしれない壁の内側で声を上げたに違いなかった。 「先生の一番美しいと思うものってなに?」 「裸体」 「なるほど」 「女の身体はもれなく美しい」  しかしきっと、一番美しい者は今目の前にいる彼女であろう。
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