《 一 》

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《 一 》

 彼は素晴らしく美しいものが好きだった。  彼の描く世界は余すことなく耽美に溢れ、その紡ぎ出される美麗なる言葉の羅列は彼の愛する綺麗で美しい全てが遍く広がる。  幾度となく読み直している愛読書を愉しんでいた彼女は、一息つこうと立ち上がり、コーヒーを片手に机へ戻った。そうして一度閉じた本を指で擦り、愛おしそうにうっとりとした。  美しいものに目がない彼は、隣人の美しさに心を奪われている。ふんわりとした、まるで顔つきも体格も少女然とした隣人は余すことなく彼の好きな美しくて綺麗なものを湛えているようだった。彼女の姿、美しく響く甘い声、彼の好きな言葉とは違う彼女だけの美しい言葉選び、それらは彼を魅了する。
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