情の話ー7

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情の話ー7

 だけど、  顔が見たい、声が聞きたい、そして三宮に触れたい。  そう思うともう体が勝手に動いてしまう。キサヤは三宮の居室を目指して部屋を出る。  歩いていた足がどんどん早くなって、最後には息をするのも苦しいくらい走っていた。  早く早くと誰に急かされるのか分らない。ただ、早くと。 三宮の部屋をおとないもぜずに開ける。 「索冥さまっ」  部屋の中央まで走り込んで、キサヤは荒い息のまま膝をついた。見まわしてもその部屋には誰もいない。長椅子に無造作に投げられている濃紺の上着に気づいてキサヤは椅子に座ってそれを手に取った。  会いたいのに会えない。別にそれが今生の別れでも無いだろうに、訳も無く涙が零れる。  好きなんだと込み上げてくるともう止まらない。上着に顔を埋めたまま、キサヤはその場から動けなかった。 「キサヤ」  キサヤの部屋に飛び込んだ三宮は、部屋に誰もいないのに気付いて唖然とした。どこに行ったのだろうと部屋を出て暫くあてもなく歩く。キサヤが自分といない時に誰と会っているのか、どんなことをしているのか。何も知らない、それを思い知って三宮は愕然とする。  ――好きだと思う相手の背景も何も知らないで、自分はキサヤをこちら側に染めてしまうことしか考えていなかった。  同等に、お互いを分かりあえる間柄にと言いながら、果てしなく自分は自分勝手だったと思う。  自分がここを出て行く決心を見せれば、キサヤが喜んでついてくると三宮は思っていた。彼の思いなど察することもしないで。自分だけが犠牲を払っているという思いはきっと自己陶酔に通じている。  きっとキサヤは、そんな自分の態度が嫌だったのだ。  どうしたらいい? キサヤ、今どこにいる?  今度は読み間違えないと誓うから。こんなにキサヤの事を思っているのだから、キサヤに伝わらないはずは無いと。すぐに傲慢になる気持ちと祈るような思い。    キサヤも同じなら……きっと。  三宮は回廊を飛び出して庭に続く小道を走り出す。ざくざくと玉砂利の上を走っている三宮の頬にぽつんと冷たい水滴が落ちる。
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