始まりー6

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始まりー6

「頭を低くして潜って」  疲れきって男に反抗する気にもなれなくてキサヤは塀に開けられた穴をくぐった。引き返せないことに気付くのは、キサヤが寝所に連れ込まれた後になる。 「ここは?」 「わたしの宮だよ、飾りの妃……って、言いにくいな。おまえ名前は?」 「えっと、彩姫です」  反射的に素直に答えたキサヤに男は眉根を寄せて掴んでいたキサヤの腕に力を入れる。食い込むように爪を立てられてキサヤは悲鳴を上げた。 「いっ、痛いですけど」 「わたしが知りたいのはおまえの種の名前だよ」 「キ、キサヤです」  じゃなくてと言いかけた男は「ああ」と掴んでいた腕の力をふいに弱めた。相手が皇子の一人だと思っているので、どうにもあからさまに反抗できない。 「悪かった。真の名はおまえにもまだ分らない、そういうことか」  一人納得して男は、キサヤの体をキサヤの実家の部屋ぐらいある寝台に倒した。重ねられた布団のおかげで衝撃も音もない。倒れ込んだキサヤの頬や腕にさらりとした絹地が触れる。 「あのっ、こ、これは?」  「わたしと契り、種の名を教えろ」 「契る? あの、俺、いやわたしは男ですよ」 「だから?」 「いや、だからって……」  あまりのことに混乱するキサヤの着物を男の手が素早くと解いていく。キュッ、シュッという紐が抜かれる音と絹地が擦れる音がしてあっという間にキサヤは下ばきの腰布一枚にされてしまった。  ――一宮と契りを結ぶと聞いても実感なんて湧かなかったのに、今は恐ろしくて堪らない。抱く性だと思って今まで生きてきたのに、いきなり抱かれるほうだと言われて納得いくか。 「や、止めてくださいっていうか、止めろっ」  相手の身分が高いとかなんだとか、もうキサヤには関係無い。男の下から逃げようと手や足を滅茶苦茶に振り回すがどうにもならず、暴れすぎて疲れただけになって、キサヤは寝台に頭を沈めた。
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