始まり

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始まり

「おまえの伴侶は銀の目を持ったものぞ。忘れるな、そしてよもや間違うまいぞ」 「ハンリョ? って何? おばば?」  流れ者の占い婆が言った言葉が五歳のキサヤには理解できない。ただ、他の子供には将来、いい馬飼いになるだとか、大工になるとか子供にも分るようなことを言うくせに何で自分には訳の分らないことを言うのだと不満だった。 「ハンリョは銀の目?」  しかし、それきりその老婆は町を離れたし、キサヤもすぐに忘れてしまった。  それから十一年の月日がなんの変哲もなく日は流れて、また続いていくのかとも思われていたのに。  透けるほど薄い白い生地でできた衣装を重ねた後に黒い絹でできた上着を掛けられる。 「事がつつがなく終わりますまでは何も喋らないようにお願いします」  全部の着付けが終わった後に顎をぐいっと引き上げられる。まるで罪人のような扱いだと思ったがキサヤは何も言わずにおく。  あっという間に薄く白い粉を顔にはたかれて、紅を目尻と唇に引かれる。故郷から用意された衣装はすべて破棄され、宮に入った途端通された部屋で着ているものを下着さえ許されず脱がされた。  その後、女官たちによって足の爪の中まで洗われる。柔らかい布で水分押さえるように体を拭かれ、香油をこれまた隅々足の爪の中まで丁寧に塗られた。  これから自分が向かうのはこの国の皇子の婚姻式。  この国では皇子の婚姻時には正妃と妃、二人を同時に娶ることになっている。正妃、妃の二人はもう皇子が七歳の声を聞く頃から選びに選んだ貴族の娘たち。そしてもう一人はこのために国中を見て回る侍従が見つけてきた見目麗しい様子の少年、だった。  美しいことが条件だが、一応ある程度の良識と知識は問われる。しかし、広く国中からというものの識字の多い農民などからは選ばれないと聞く。  これぞと思うものを地域に分かれた役人が選び、一か所に集められた後に選抜される。  そのため、キサヤも故郷を離れてもう半年以上は経っていた。  契りを結ぶのは二人だけなのになぜか、婚姻式には三人の花嫁が形式的に用意される。そして三人目は必ず男子に限られていた。  その式以後は、それと分らぬように妃の任を解かれて王宮の官吏に取り立てられるのだから文句の言いようも無い。少しでも見目のいい子供を授かると、親は皇子の婚姻の時期に当たるようにと願っていた。
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