始まりー4

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始まりー4

 斜めに降りた前髪がさらりと長く、横に結ばずにいる髪に続いていた。  銀の眼? どこかでなにか聞いたことがあると頭で警報が鳴っていた。どこかで自分は聞いたことがある。 「おまえさ、飾りの妃の仕事はもう終わりだと思っているのだろう?」 「そうじゃないのですか? ここまでしか説明は無かったと思いますけど」  顔が近くて相手の息が頬にかかる。 「表向きにはね。これから後起こることは本来、妃を娶る皇子本人と側近しか知らない」  だったら何であなたが知っているのだと怖くなってキサヤは逃げを打つが、背中にがしりと腕をまわされて阻まれた。 「何があるって仰るんですか?」 「飾りの妃はこの式の後、普通の官吏になるとかいうアレ、嘘だから」 「ええっ?」  キサヤの驚いた顔を面白そうに見ながら、男は片手でキサヤの顎を持ったまま低く云った。 「式の後、おまえは皇子に体の奥に印を付けられる。そうなったらおまえは身も心も皇子のモノになる。好き嫌いでは無く、皇子の忠実な眷属として彼に仕えることになるんだ。皇子の命令には逆らえない、そういう生き物になる」  しばらく意味が分らずキサヤは男がキサヤの耳たぶを甘噛みするのにも気づかなかった。 「どういう事ですか」 「聞きたい?」  悪戯っ子のように片目を閉じると男はキサヤの唇を奪った。あまりの事にされるがままだったが、どうにか腕をつっぱって逃れる。 「何、なさるんです?」 「やはり、魔族の体は甘いな。想像以上だ。これは兄上に渡すのはやっぱり止めとこう」  銀の瞳がきらりと光ったのを見てキサヤは古い言葉をやっと思い出した。 おれの伴侶って……男じゃないか、こいつ……。そんなばかな。 「あの、変なことをお聞きしますが、あなたさまには姉君か、妹君がいらっしゃいます?」 「なんでそんなことを。いるよ、ざっと八人ほど」  男の言葉にキサヤは、はあと息を吐く。良かった、きっとこの人の姉か妹のどれかと縁があるに違いない。  やれやれと思ったのもつかの間、男が眉根に皺を寄せてキサヤの肩をぐいと抱いた。 「何考えているのか知らないけど、おまえはもうわたしのモノだからね」 「へ?」 「皇族は昔から魔族と交わることで力を保ってきたんだ。昔は女性の魔族も見分けがついたらしいが今じゃ女性は魔力を次世代に渡す機能しか無いらしい。もう人間とは見分けがつかない」
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