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始まりー5
「さっきから魔族、魔族って、誰が魔族なんですか?」
キサヤの問いに男はぷっと吹き出した。
「おまえだよ、飾りの妃。美麗な少年を探すのは魔族が色白で綺麗な顔をしているという特徴があるからさ。そして体を検めたのはその少年が魔族かどうかを調べているからだよ。
おまえの体のどこかに魔族特有の印がある。おまえはどこにあるんだろう?」
男の視線に耐えられず、キサヤは下を向いてしまった。
――きっとアレの事を言っているのだと分ったが、アレが魔族の印だなんて思いもしなかった。そしてそれがあるのはちょっと人には言えないところで。
「次の帝になるだろう兄の大事な妃になるところだったんだ。さあ、行こう飾りの妃」
キサヤの肩を抱いたまま、男が楽しそうに言うが。
「行こうって、今の話じゃどっちにせよわたしは身を守れないじゃないですか」
キサヤの抗議にうっと詰まる男はいい説得を思いつかないのか、目線を上に向ける。しかし、一宮さまを兄上ということは、この男も皇族なのだろう。
こんな殿上人と知り合いになることなんて今まで思いもしなかったと喜ぶべきなのか? 冗談じゃないとキサヤは首を振った。
どうにかして初めてが男だなんていう悲しい状況から逃れたい。この皇族の男について逃げるふりをして途中で逃げ出すのはどうだろうかと考える。
「もしかして逃げる算段でもしてる? そんなことしたらおまえの家族皆牢屋に入れられるぞ」
面白そうに男に言われる。
「あなたについて行ったってどうせ処罰されるんじゃないですか」
一宮の元から逃げたことが分れば、故郷の一族は死刑になるかもしれないとキサヤは身を捩る。
「そうだな、身代わりを立てて誤魔化すさ。甘いなんてどうとでもとれる。本当に蕩けるように甘いと知っているのは味を知った者しかいないんだから。つまりわたしだけだし」
都合良く言うと男は裏道のような所をキサヤの手首を掴んだまま、どんどん歩いていく。
「ちょっと、お待ちください。これじゃあ、ばれたら実家の親に迷惑がかかるってことですよね。同じ事されるんなら今のお相手でいいですよ、もう」
キサヤの願いなど端から聞く気は無いのか、男は振り向きもしない。
迷宮のような回廊を歩かされてキサヤはもう今自分がどこにいるのか見当もつかなくなった。
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