新しい駅。

8/12
前へ
/12ページ
次へ
…アメリカの芸能事務所。 この映画は世界的人気バンドグループの物語。 そして、俺が参加するのは、 バンドメンバーの話し合いのシーンだ。 一度解散しかけていたメンバーが、再結成を協議する大事なシーン。 確かに、映画でこの部屋が使われていたのを目にしたことがある。 セットがリアルだ。それにすごくいい匂いがする。 音楽もリアルで、テンションが上がる。 何より、すぐそこに、ハリウッドスターがいて興奮せずにいられない。 スターの一員になった気分だ。 早速出番がやってきた。 俺は事務所スタッフの役。 メンバーにコーヒーを持っていき、 一言言ってテーブルに置けばいいだけ。 コーヒーを飲んだのをきっかけに、 ボーカルが再結成を切り出す…という流れだ。 日本語吹き替え版なので、セリフも日本語で大丈夫。 目の前の芝居がテンポよく展開されていく。 流れに乗って話せるだろうかと思うと、徐々に緊張してきた。 前のセリフが終わり、自分の番がきた。 メンバーの元に向かおうとするが、足が震える。 「お待たせしました。えっと、ホ、ホ、ホットコーヒーの、えーと」 完全にセリフが飛んだ。役者の顔が険しくなった。 せめてコーヒーはちゃんと渡そう。 しかし、手がブルブル震える。 「あっ」 ホットコーヒーをボーカル役の俳優の白いジャケットにぶちまけた。 男優が熱さでもだえている。 他のメンバーは鬼の剣幕で怒りだしている。 え、やばいどうしよう。 その直後、僕の体は、急激な力で引っ張られた。 安全器具に結ばれた紐がピンと張り、逆バンジーのように体が宙に浮いた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加