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灰皿の上で燻ったタバコ。
火が消えかかったタバコを手に取り、もう一度火を点けて吸う。
甘い匂いが部屋いっぱいに広がり、甘ったるい匂いのせいか胸がいっぱいになり、涙が流れてくる。
失った者の大きさに、
自分の中でどれだけ大きかったかに改めて気づく。
部屋の窓を開け、込み上げてきた気持ちと部屋に溜まった甘ったるい匂いをまとめて外に流す。
窓を閉め、流れ切らなかった想いを部屋中に響かせ一人蹲る。
テーブルの上に残された一箱。
そこから一本取り出し、火を点ける。また甘い匂いが充満し始める。
彼女の匂い。香水など一切しなかった彼女。
それでもいつも甘い匂いがした。彼女がいつも吸ってるタバコがどうやら甘い匂いのするものらしく、そんなタバコがある事を初めて知った。
彼女が居る気がして、戻って来た気がして。
何度も玄関を眺めてはため息をこぼす。
別れの言葉告げたのは僕だった。
どうしても言わなきゃいけなくて、彼女の幸せを自分なりに考えて告げた言葉は、彼女の幸せを否定した言葉だった。
それでも伝えなくちゃいけなかった。
君の前にもう姿を現せないと知ったのは、頭が痛くなってから数日後の病院での事だった。
助かる見込みのない病だと言われた。
僕が君の前からいなくなってしまう前に。
君がどんな涙を流そうと、どんな表情になろうと、それで僕まで苦しくなろうとも。
突然の別れの言葉に、帰り支度をする君。
テーブルの上に残された君が持ってきたタバコと旅行雑誌。
玄関のドアの閉まる音がする、もう全て後の祭りになってしまった。
静かになってしまった部屋で、彼女のために買った灰皿の上に残されたタバコを手に取り、火を付け、失った君のことを思い出し、蹲る。
胸焼けするほどに甘い匂いのする部屋で。
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