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すべてはバイトの給料を取りに行った帰り、
ある近所のおっさんに出くわしたあの日から始まった。
その近所のおっさんは地元の草野球ではかなり凄いと評判のピッチャーだった。
おれはそのピッチングを実際に見たことはなかった。
おっさんが俺に話しかけてきた。
「給料入ってんやろ?それと引き換えにおれの魔球・シンカーを特別に教えてやるわ。
誰にも教えてへんけど、特別に。今どうしても欲しいもんがあるから」
それを聞いたとき、俺は正直ふざけるなと思った。
バイトといっても6万ぐらいあったし、それにそのぐらいの価値がおっさんの
シンカーにあるとは思えなかった。
確かに、おっさんの球を見た友達はビビッててちょっと尊敬していた。
まあでも、おれもそのときずっと野球を小1からやってたし、そんな球を投げたかったので、
とりあえず、いっぺん見してくれと言った。
おっさんは、半笑いしながらオッケーオッケーと言わんばかりに頷き、俺にキャッチャーを
やるように指示した。
ゆーほどたいしたことないやろ、と思いつつも、おっさんのグローブを借りて座って待ち構えた。
その投げ込まれたシンカーは手元で鋭く変化し、グローブをかすめながらも、俺の金玉に
直撃した。グローブを上にもっていったら、急にボールが沈みやがった。
そのシンカーに物凄く衝撃を受けたが、その時はそれ以上にバリ、金玉が痛かった。
金玉の縫い目みたいになってるとこが、張り裂けそうだった。
その生で体感したシンカーの凄さに、俺は迷わず給料と引き換えにその素晴らしい魔球を
伝授してもらうことを決めた。
それから暫くして、俺は10年に1人の逸材と呼ばれるようになった。
高3の夏、甲子園の優勝投手になった。
そして大学へ進学し、卒業後、ドラフト1位でプロの道へ進み、その年の新人王に輝いた。
2種類のシンカーを武器に。
今年でもう、5年になる。
あのおっさんはというと、風の噂では、あの後すぐ、
投げてはアイシングせんとほっといて酒飲んでたら肩をいわしたらしい。
あの時のおっさんはホンマ凄いおっさんやってんやと思う。
今でも超えれてないかもしれない。
俺はあの時授かったシンカーのおかげで今こうしてメシが食えている。
評論家もこのシンカーであと10年はメシが食えるといっている。
ただ、たまに、金玉の古傷が痛むときがあり、失投をおかしてしまう。
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