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今夜も寒いですから
都の冬は厳しく、貧乏生活を強いられる壬生浪士組の隊士たちは暖を取るのも苦労する有様だった。
屯所はなんとか都合できたものの、家主が暖房まで面倒を見てくれるわけではなかったので、あるものでしのぐしかない。
古い火鉢が押し入れにあったので引っ張り出してきたけれど、隊士の数に対して、火鉢はたった一つ。みんな、喉から手が出るほど火鉢が欲しかった。
「近藤さんが使うべきです」
と、真っ先に言ったのは、沖田だった。
シー、シー、シシー。
あちこちから非難の視線が突き刺さった。
屯所の広い座敷の中、江戸、試衛館の連中とは距離を置いた場所で、でえんと座っているのは水戸藩出身の芹沢局長とその取り巻きである。ぷかりぷかりと煙管をふかし、流し目で試衛館組を見ている。もう最初から、貴重な火鉢をものにするつもりでいるのは明白だ。
しいんと静まり返った座敷の気まずい空気の中、芹沢局長の側近がのしのしと歩き、あたりまえのような顔で火鉢を抱え上げた。のさっと芹沢局長は腰をあげ、火鉢を伴い、意気揚々と座敷を後にした。
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