1. 黄金色

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1. 黄金色

 3階の教室の窓から、すじ雲が見えた。  真綿をほぐしたような、細く柔らかな雲は、夕陽を映して黄金色に光っている。    天使の巻き毛が見えたなら、こんな感じだろうか。  ぼくはスマートフォンを取り出して、何枚か写した。座って画像を確認する。上々の写りに、思わず顔がほころぶ。 「すごい! 外国の教会の絵みたいや」  頭の上から声がする。  顔を見なくてもわかる。  みちるだ。  1年から同じクラスだ。入学当初、席が近かったこともあり話をするようになった。  いくら近くても、普段は男子とでも人見知りするぼくにしては珍しい。なぜかみちるとは、気兼ねなく話せた。  まあ、女子と話している感覚はない。それにみちるは誰とでもフレンドリーだし。  よく、同じ中学出身だと勘違いされる。 「勝手にのぞくなって」 「ほめたげたのに。それに、もともとスマホ、あかんよね」  校内では使用禁止だ。みつかると、一週間取り上げられる。ぼくは制服のポケットにするりと滑り込ませた。  上目遣いにみちるを見る。ショートカットのくせ毛だ。茶色の柔らかそうな髪が、ところどころはねている。さっきの雲は、みちるの髪に似てなくもないなと思う。  その前髪の下の右眉がくいっと上がる。これは何か企んでいる時の、みちるの癖だ。 「あのさ、頼みがあるんよね」  言葉に反して、態度はでかい。  ほら、やっぱりな。ぼくは身構える。  みちるの目もでかい。色は淡くてハシバミ色だ。虹彩の筋まで見える。  その目がくるっと動いた。
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