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2. 藤色
放課後、本を返しに図書室へ行くと、みちるが当番をしていた。カウンターには他のクラスの委員が座っているので、本の整理をしている。
図書室ということもあって、先日の読書会のことがよみがえった。
「この間は悪かったな。何か、ぶち壊しにして」
「別に、感想は人それぞれやし。でも夢を否定したのは、びっくりした」
「いや、否定したわけでないけど」
「いやいや、思いっきりしてたし。青くん、外野から見てるばっかりやん。若者なんやから、もっと情熱燃やそう」
「何やそれ。大昔の青春ドラマか」
みちるはタタッと走っていって、向こうの棚から一冊の本を取り出してきた。
最近、話題の絶景の写真集だ。
「ねえ、こういう風景見て、感動するう! 行ってみたーい! とか、ならん?」
「あのな、これ見てここに行って、同じ景色が見られるわけでないぞ。これはカメラマンが、天気とか日光とか計算したり、納得がいくまで、何回も通ったりして撮ってるんや」
「えー、だから行ってもしょうがないって思うん? あたしは反対やな。日本や世界には、こんな素敵な所があるんや。この目で確かめたいって思うよ。これは、そう思わせる写真や」
確かにその写真には、すんなり気持ちが入り込んだ。素人には撮れない奥行きを感じるが、押し付けがましくない。技巧に走っていない。
「会いたいと思えば会える、行きたいと思えば行ける……このカメラマン、あとがきで書いてるよ。自分の気持ち次第ってことやね」
みちるは写真に見入っている。
「青くん、撮った写真、インスタとかにアップしてみれば? フォローしてくれる人がいると、気持ち変わるよ」
「別にいいし」
「じゃあ、あたしに見せて。今度、青くんがいいなと思うもの撮ったら見せてよ」
みちるの目が、本気だと言っている。
その迫力に押されて「そのうちな」と言ってしまった。
次の本は借りずに、図書室を出た。
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