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4. 紅
その日は、昼頃から急に雨が降り出した。
ぼくはいつも、折りたたみの傘をリュックに入れてある。
生徒玄関でそれを取り出そうとすると、何やら得体の知れない物に触れた。
恐る恐る手を深く差し入れてみたら、この間のカラスの羽根だった。ほっとした。
また、リュックの奥底にしまった。
玄関や校門付近には、人待ち顔の生徒が何人かいた。
雨になったから、家の人の迎えを待っているのだろう。
校門を出ると、向こうに赤いボルボが停まっていた。
ナンバーを確認する。うちの車だ。
じいちゃんが迎えにきてくれたのかと近づくと、運転席にいるのは紅葉さんだった。
慌てて窓をたたく。気付いてドアを開けてくれる。
「おかえりぃ! 久しぶりぃ!」
助手席に乗ると、紅葉さんが、ぼくの首に抱きついてきた。
「うわ! やめてって! 誤解されるやろ」
「誰が見てるって言うのん。もお、せっかくお母ちゃんが迎えにきたのに」
「いつからいた? サングラスかけてよ」
「雨降ってるのに、サングラスかけたら暗いやないの」
それはそうだが、この人は主役級の女優なのだ。
もっと自覚してほしい。外を見回す。
紅葉さんは、自分の出自を隠しているわけではない。
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