4. 紅

1/7
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ

4. 紅

 その日は、昼頃から急に雨が降り出した。  ぼくはいつも、折りたたみの傘をリュックに入れてある。 生徒玄関でそれを取り出そうとすると、何やら得体の知れない物に触れた。 恐る恐る手を深く差し入れてみたら、この間のカラスの羽根だった。ほっとした。 また、リュックの奥底にしまった。    玄関や校門付近には、人待ち顔の生徒が何人かいた。  雨になったから、家の人の迎えを待っているのだろう。    校門を出ると、向こうに赤いボルボが停まっていた。  ナンバーを確認する。うちの車だ。  じいちゃんが迎えにきてくれたのかと近づくと、運転席にいるのは紅葉さんだった。  慌てて窓をたたく。気付いてドアを開けてくれる。 「おかえりぃ! 久しぶりぃ!」  助手席に乗ると、紅葉さんが、ぼくの首に抱きついてきた。 「うわ! やめてって! 誤解されるやろ」 「誰が見てるって言うのん。もお、せっかくお母ちゃんが迎えにきたのに」 「いつからいた? サングラスかけてよ」 「雨降ってるのに、サングラスかけたら暗いやないの」    それはそうだが、この人は主役級の女優なのだ。  もっと自覚してほしい。外を見回す。  紅葉さんは、自分の出自を隠しているわけではない。     
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!