5. 黒

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5. 黒

 目覚めて、自分の部屋ではない天井を見ると、戸惑う。  霧が晴れるように記憶が徐々によみがえる。  そうだ。  ここは病院だったと思い出す。  階段から落ちたのに、ぼくは大したけがは負わなかった。  段数が少なかったのと、背負っていたリュックがクッションになったからだ。  ただ、全身を強く打っているらしく、少し動かすだけで、そこらじゅうが痛む。  気が付いてからすぐにみちるのことを訊ねた。  まだ、意識は戻っていないとのことだった。  自分の目でも確かめに行った。  みちるの頭には包帯が巻かれ、体には何本もの管がつながっていた。 「みちるさんは、今どういう状態なんですか」 ぼくは、看護師さんをつかまえて訊ねた。 「ご家族以外の方には、お話できないきまりなの」 行ってしまおうとする看護師さんの袖をつかんだ。 「ぼくのせいなんです。みちるはぼくの、こんなぼくの、どうでもいい誇りを守ってくれたんです!」 ぼくの必死さが伝わったのかもしれない。 看護師さんは、少し表情を和らげた。 「あなたが心配しても、どうにもなりませんよ。あなたは自分の体を治しなさいね」 「まさか、このまま意識が戻らないなんてことは……」 看護師さんは、また苦しい表情になると、目を伏せて、行ってしまった。  何でや!  写真なんか、撮らせておけばよかったんや。  正義感強いのも、たいがいにしとけよ。  こんなんで死んだらあかんやろ!  ぼくは謝ってないんやでな!  何か手立てはないかと考えた。 どうしたらいい。 どうしたらいい。 ここでこうして、手をこまねいているしかないのか。 何もできないのか。 そして、  願いを叶えると言った大王の言葉を思い出した。
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