(四)

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 あの二人の初デートなのよと己に言い聞かせるが、どうしても胸に溜まったどす黒い(おり)が消えない。こんな気持ちのままでは久しぶりのお出かけを楽しむことは出来ない。派手な色の服でも着込めば明るい気持ちになるかもしれないと思う。しかしそれでは真理子がかすんでしまう。たぶんあの()のことだから白いブラウスと薄いベージュのスカートだろうと思えた。 (わたしがコーディネートしようかしら)。そう思いもしたが(出しゃばりすぎるのもよくないわね)と、真理子に任せることにした。でなければ、デートの度に真理子の世話を焼かなくてはならなくなる気がしたのだ。(それにわたしの趣味と真理子ちゃんのそれでは、違いすぎるだろうし)とも思えた。    突然に、昨年のとんでもない勘違い女に出くわした結婚披露宴が思い出された。新郎側の親戚だとかで、行き遅れてしまった三十代半ばなのよと聞かされた。冗談交じりの「披露宴で相手を探したら」という新郎の言葉で、大きく肩を出したフリル付きのドレス姿で出席した。新婦がかすむほどの深紅色に、出席者全員が眉をひそめた。  そんな愚行を犯すわけにはいかない。(引きずっちゃいけないのよ。あたしのことなんだから、二人には関係のないことなのよ)。ドレッサーに映る己に言い聞かせて、唇に赤い線を引いた。
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