(一)

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 伝票が出来たぞ! と声がかかり、二人して倉庫の二階にある事務室に入った。中二階の造りで事務をする人間には不評な一室だ。広さも八畳ほどで、そこには女子事務員が三人と課長が陣取っている。そして社長夫人が経理担当としてにらみをきかせている。主任の席もあるにはあるのだが、一階の入り口近くに机を置いて差配している。現場での仕事が多いからというのが理由なのだが、社長夫人が苦手だからさと噂されている。  カウンター代わりの事務棚の上に小箱が置いてあり、担当者別に伝票が仕分けされている。それぞれに伝票を受け取り、部屋を出たとたんに岩田が「増田商店の本田さんが寂しがっていたよ」と、彼に耳打ちした。昨日急な注文が入り彼の代わりに岩田が届けたと言う。にやついた表情でも見せれば冗談かと受け止められるのだが、能面のように無表情では本当なのかと思える。彼はといえばふんと鼻を鳴らして無視する態度を見せているが、眉を八の字にしながらも口元が緩んでいる。内心の嬉しさを隠し切れていない。
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