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常連客と困った顔の似合いそうな店主の会話に、ふっと冷めきったコーヒーを飲み干した。そろそろ、店主について知っている言葉もなくなった。
リン、と響く少し高いドアベルの音は好きじゃない。大きく開かれたドアに白い煙が薄れて、私のタイムリミットは簡単に覆った。境界線が薄れて角の溶けた体が、非難を送りながら、体は雨に濡れないうちに家に帰りたい。と伝えてくる。
「おかわりのコーヒーと傘。どちらになさいますか?」
ふっ、といたずらっ子の顔をした店主の言葉に、微笑みと伝票を返す。良く見ている人。透明度の高いブラウンの眼球は、瑞々しくて、ガラスのように冷たくない。
「またのお越しをお待ちしております。」
リン、と鳴ったドアベルの音に、アスファルトに撒き散らされた汚れが私を形作っていく。タバコの臭いが混ざって、新しく形作られた、ほんの少し新しい私を、紳士用の大きな黒傘が守る。
ほんの少しも可愛くもない傘は、何だかとっても心強かった。
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