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「本当に、怪我とかしてないの?」
「してないよ。怪我はしたけど・・・治った」
「治ったって・・・。でも、今回は全然帰ってこなかったからどうしたのかなって思ってた。閉じ込められてたの?」
「あー・・・」
閉じ込められていた、といえばそうだが、それはオウカが思っているようなものではなかった。閉じ込められていたけれど、その上で自由を与えられ何不自由なく暮らしていた。
「オウカもさ・・・・・・魔物はどんなものだとしても倒すべきだと思う?」
「え? なに言ってるの。魔物なんて人間に仇なす存在でしょう倒さなくてどうするの。倒さなければいつ人間界が襲われるかわからないでしょう」
「もし、人間を襲うつもりがないとわかったとしたら?」
「リュカ・・・? どうしちゃったの? 閉じ込められて、なにか情でも生まれたの?」
「・・・そうじゃないけど」
「魔物がいい人なんて、そんなのあるわけないって思うけど・・・。ずっとそう教えられてきたし」
そうなのだ。そう教え込まれる。魔物は悪だ。魔王は残忍だと。だからその意識は消えない。覆せない。幼い頃から教え込まれたその意識は、現実味のない恐怖に代わりただ怯えるだけの材料となる。
今のこの環境がよくないのだと気づいた。
グレンが言っていた。現実に魔物が、魔王がどうであるかなど関係ない。ただ、人間が怯えている。恐れているため、その恐怖を和らげるために魔物には犠牲になってもらわないといけない。
グレンはわかっているのではないか。これまで一度も魔物が人間界を脅かしたことがない。魔物に人間を襲う意思などないかもしれないこと。
だとすれば、国自体がそういう考えである以上、簡単に覆せない意識なのだと絶望したのだった。
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