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「人間界では、師はいたのか」
「いない。訓練自体したことがなかった」
「それなのに、勇者になったのか」
「・・・・・・国としては、誰でもよかったんだ。魔王討伐の体裁だけ保てれば」
このようなこと、魔王に話していいわけはないだろう。だが、恐らくルカは悟っているだろう。自分のような弱い人間が送られてきただけで。
「これまでに、何度も強い者が犠牲になってきた。だから、魔王討伐に割く人員を惜しくなったんだろう。敵わないと踏んで、最近はひとまず国民の不安を取り除くために、俺みたいな身寄りのない者を対象に選んでいるらしい」
赤裸々に話しすぎた、とリュカは思った。
ルカは、どこか頑なにならせてくれない空気を持っていた。冷たく射ぬくような冷めた目をしているのかと思いきや、実のところそうではなかった。
リュカに限ってだけかもしれないが、とても優しく甲斐甲斐しい姿を兼ね備えている。他の人間への対応を見たことがないため、リュカには自分以外への魔王の姿はわかりかねるが。
しかし、リュカがいなければ、人間界がどうなろうと興味はないといっていたくらいには、冷えた心を持っているのだろう。
これまでの魔王がことごとく返り討ちにあっているのもそのせいだろう。だとするならば、自分が勇者でいることが、一番適しているのではないかとも思うのだ。
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