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魔王城での生活にも慣れてきた。
慣れというのは恐ろしいものだとリュカはつくづく思う。
大広間でルカと顔をあわせて食べる食事も、見守られながら行う剣術の稽古も。それが当たり前の日常のようになっていた。
でも、時おり思うのだ。
オウカはどうしているだろうか。戻らないリュカを心配して、死んだものだと嘆いていないだろうか。元気であることだけでも知らせられたらいいのに。
「リュカ」
「・・・なんだよ」
おどろおどろしい不気味な空と景色をテラスで眺めているといつの間にか隣にたっていたルカに名を呼ばれた。
それにも、随分と慣れた。ルカに、暖かな声色で”リュカ”と呼ばれる。まるで愛しいものを呼ぶような暖かさに、最初の頃は随分居心地に悪さを感じていたのに。
「なにを考えていた」
「別に、何も」
「そうか? 人間界が恋しいと顔に書いてある」
「だったら、帰せよ! いつまでもこんなところじゃ息が詰まる!」
ここに閉じ込めているのはルカなのに。
こいつを殺すか、こいつが自分を手放すかしか、人間界へ生きて帰る道はないのだ。
生きて帰れなければ、ここで死ぬことになる。本来なら、そうなっていたはずだ。これまでどれだけ強いとされていた勇者でも勝てなかった魔王に、剣の腕なんてからっきしなリュカが敵うはずなど到底なかった。
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