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参観日
先じて言うとこれは決して良い話ではない。若しかするとあなたの気分を酷くするかもしれないが、知りたい人はこの独り言を聞くといい。
それはある日の土曜参観だ。生憎の豪雨の日で、外では雷が鳴っていた。無論視界は黒々として、あまり気分が良い日ではなかった。然し自分の娘は朝から楽しそうに、そのしどろもどろな言葉で話し掛けてくる。これは私達にしか理解の難しい言語……。
暫くし自分と妻も参観に向かった。教室が開放されると周りの人も鈍い泥水が堆積するように集まってくる。
こんな会話を交わしていた。
「楽しみだな」
自分は妻にそう言った。妻は軽く首を縦に振る。自分はその時周りの空気を察し、声を抑えた。
でもそれはむしろ悪い選択だったのだろう。
とうとう娘が発表する番が回ってきた。娘は喋るや否や、そのパズルのような言語で話し出した。
これが全ての切っ掛けだ。
聞こえてしまった。
「何あの子?可笑しいんじゃない?」
半ば三十代辺りの帝国貴族の様な声だった。
「あら知らないの奥さん。あの子は病気なんですよもぅ」
勿論病気でも何でもない、ただ言語能力に乏しく生まれただけだ。そう言い聞かせてもその声が脳裏で壊れたテープのように再生される。
やがてこんなことを考えていた。奴らの職業、家柄、学歴、ありとあらゆる情報の中から不利になるものを暴こうと試みる。さらにどうすれば消せるかとか、どうすれば人生のドン底に落とせるか、より自分だけの手で視界から、認知から消去できるか、これ以上語るに恐ろしいものに自然と襲われる。
そのうち何処か糸針で刺すような痛みが脳から足先まで隈無く巡る。足と手は雨のせいかジメジメと死んだ様に冷たかった。すると立つためにバランスをとるので手がいっぱいになる。真面に目の前の物を見ようとすると何処か虚無に見えた。
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