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やがて自分は1歩前に出た。すると妻は自分の肩にぽんと手を置き、天使がなにか咎めるような顔を見せた。気がつくとさっきまでの娘の発表どころか授業も終わりに近くなっていた。自分は酷く恐れを感じた。まるでさっきまで死神に取り憑かれたかのような気がしたからだ。これは自分の想像だが、その時身体は震え、酷い顔をしていたのだろう。そしてそれに気がついたのは他でもない妻だけだろう。
夕方のあかね色のそらはすっかり雨の姿を消し、ただ風が吹いているだけだった。
娘はうれしそうに笑い、妻も一緒に笑う。なんだ、ばかばかしいな、なんで自分はひきずっているのだろう?そうだ……笑おう。
見ないように、考えないようにしたわけじゃない、考えたらそのぶんだけ妻や娘のことを考えるようにしただけだ。もしあのとき妻がいなかったら、今頃自分はどこにいただろう?あのとききせきのようにであい、ほんきで好きだと言って良かった。
「ありがとな」
妻はくびをふる。そんな妻はまるであのときのように、安心できる笑顔をむける。
娘は笑っていた。妻も笑っていた。何を言われようと娘と妻が幸せならいいんだ。それが自分の幸せだから、ただ道のとおりすがりに見たひとごとなんて気にして生きていけないように、今あることをよろこべるならそれでいい。
もし妻や娘が幸せを忘れたら教えてやる。そうきめて結婚したんだからな……。
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