はなればなれ

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はなればなれ

それはまだ自分が妻と結婚する前、さらに言うと彼女になる前の話だ。だからここでは妻と言わず彼女と言う。  自分は彼女が好きだった。凡人にはない好奇心と志、しっかりとした人柄、愛する人をとことん愛する性格。そしてこんな自分をも大切にしてくれるところ。それだけじゃない、熱心な分周りが見えないところ、時々理解されずにいるようなところ、ちょっとおバカさんなところ、こんな自分のことも理解しようとしてくれるところ。それも含め彼女を愛していた。好きだという気持ちがだんだん愛に変わっていった。  とても愛おしくて、彼女のことを知りたくて、一緒にいたくて、そのために色んなことをした。  だけど、いつしか持った夢は彼女と離れることを強要させた。大学受験、遠い大学を目指す自分は地元の大学を受験する彼女とはなればなれになってしまう。そう思った途端、彼女に好きと言えなくなった。会えなくなるのが辛いんじゃない、会えなくさせるのが辛いから。 「好きだ。」「好きです。」「付き合って欲しい。」 何度も繰り返して、練習してるのに、言おうとしていつも終わる。これが自分の受験だった。  このままが良かった。このままずっと終わらない高校生を彼女と過ごしたかった。だけど終わりが来るんだ。 「遠く離れるのが嫌なんだ。」 何気なく呟いた。誰にとは言わず。 「遠く離れても、またメールもできるし、電話できる。休みには帰っても来れる。距離なんて関係ないんじゃない?」 覚えてる。その言葉で自分が救われた日を。彼女は覚えてるか分からないけど。
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