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言うべきか言わざるべきか
季節は冬になり、いつものように満員電車に揺られる僕。
ふと、ある事に気付く。
この鮨詰めの中、左手の一部は誰かに触れているはずなのに頭の中に映像が流れ込んで来ない。
今日は記録的な寒波になるとの事で普段絶対に身に付けることのない手袋を嵌めている。そうでもしないと手が言うことを聞かない、其れほどまでの凍てつく寒さだった。
(そうか!手袋さえ嵌めてれば、触れても映像を見なくて済むんだ!)
その日からだ、季節問わずに満員電車で手袋をするようになったのは。
いつものように駅までの帰路をトボトボ歩いていた時だった。
「聖都?」
『えっ?』
「やっぱ聖都じゃん!」
『ハナ姉?』
【ハナ姉】は昔、僕の隣ん家に住んでいた4つ上のお姉さんで小さい頃、よく遊んで貰っていたっけ。
僕が小学6年生になると同時に引っ越してしまい、もう二度と会うことは無いと思っていた。勿論、僕がイジメに合っていた事や【力】の事も知らない。
「あれからもう12年かぁ~。どお、ちゃんと元気してた?」
『まあ、ぼちぼちと。それよりハナ姉、そんなニコニコして何か良いことでもあったの?』
「んーとね♪、一つは久しぶりに聖都に会えたのと、もう一つはお店のショーウィンドウに展示してある商品に買い手が付いたこと。かな(^ー^)」
ハナ姉は瞳を輝かせながら嬉しそうに話す。
『へぇ~、そりゃあ良かった』
「へぇ~、って!聖都あんたさぁ、私と会えて嬉しくないの!?ほらほら!」
ハナ姉の腕が僕の頭に絡み付く。いわゆるヘッドロック状態。
『う、嬉しいに決まってんじゃん// //』
「おっ!な~に顔赤くしてんの!あんた、私の事そんなに好きなの~」
多分、初恋はハナ姉だったんだと思う。多分だけど。
『ち、ちげーよ// //そんなんじゃねーよ!』
「あら、そうなの?おっと、私もう行かなくちゃ」
『ハナ姉!あ、あのさぁ...』
「んっ?どした?」
ニコっと微笑むハナ姉。
ハナ姉なら僕のこれまでの出来事を話せば親身になって応えてくれるだろう。けど、ハナ姉にまで僕のこの重荷を背負わせる訳にいけない。
『い、いや 何でもない...』
「?そっか、じゃあ聖都元気でね」
『うん、ハナ姉も』
僕は立ち去ったハナ姉の姿をずっと追い続けた。多分、もう会うことは無いだろう。
『サヨナラ、ハナ姉・・・』
そして、僕も冷えきった体を擦りながら速足で駅へと向かった。
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