新命路

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 いったいアラスカに”何があった”というのか。  アメリカ軍にとって最大の秘密兵器、巨大レーザー衛星が軍関係者の管理を離れて勝手に動き出し、雪原を何度も照射した森林火事を起こしたりもした。  しかし、それは軍内ではあくまでも単なる”装置誤作動”で済まされたのだった。だから、偶然、人跡未踏の地に起こった。  もし、これが”飛び地”でなく、本土のどこかで起こっていたら、国防長官は間違いなく解任されたことだろう。だから、誰もが、この奇跡を疑わなかった。疑ったとしても、多分、ごく一部だろう・・  その一方で、実は静かに”革命”が起こっていた。それは、見るべきものが見れば、一目瞭然でも在るが、気づかねば、確かに、それまでの話だった。  レーザー衛星製作に中心的働きを行ったユニバーサルアラムコの技術陣よりも、上の経営陣から、かなりの人間が、”引責辞任”されたのだ。それは、軍の中でも同様に。  どうも、そもそもこの巨大レーザーは、ソ連から飛来するICBM迎撃用だったらしい。  しかし、今回見せたような地上攻撃能力があれば、敵国攻撃に核兵器は無用なのではないかという世論も生まれた。  そのために、核兵器配備論の軍人や議員が、かなり職を追われたりホワイトハウス周囲から姿をけしたのだった。  米国の核戦略は失われることはなかったが、保有核兵器数を、ソ連のそれに合わせるまで削減した。もちろん、ソ連が少なく公表している可能性は否定できなかったが、双方がその全てを使えば、それでも二回は人類を絶滅できる量であったから、それ以上持っていても”無意味”という理解が、米国民に生まれた。  それよりも、ソ連はこうした巨大レーザー衛星をまだ持っていないということで、今のうちにモスクワ・クレムリンをそれでピンポイント攻撃しろって論調が生まれたほどだった。しかし、”それをすれば、核攻撃相当とみなす”とソ連側が表明したことで、即座に沙汰止みになったのだが。  核兵器信仰者、その多くが、白人優位論を隠すことがなかった、しかし今の米国民市民の中でも実は少数派の人々が、軍の上層や企業のトップから次々と不祥事退陣をしていったことで、気がつけば、アメリカの”風通し”が、かなり良くなっていた。それは、まさに暗雲、嵐が去って、薄日が差したような、伸びをして深呼吸したくなるような感覚であった。
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