新命路

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 彼の一文では、あくまでも軍や政界に跋扈し一世を風靡した”不死鳥集団”勢力が、凋落していく過程を報告したものであり、その不死鳥集団が、その目的を達成するためにどのようなことを実際に目論んでいたのかは、明らかにされることはなかった。  不死鳥集団・・実際は”不死鳥結社”とでも言うべき存在だったという最近の研究もあるが、その当時は不死鳥集団と言われたのだった。  なんでも”核戦争で地球を浄化し、そのあとに生き残った”選ばれし白人”種族で永遠にこの地球を支配する”ことを理想とする思想グループだったとされる。  犬神の文章は、あくまでもそうした思想家の一団が政界から一掃されていった、その過程をルポしているに過ぎないからである。  今となっては、それが片手落ちだと指摘する人間もいるが、それも後の時代だから出来ることだったのだ。権力の表舞台から一掃されたとはいえ、不死鳥集団が、まだ米の政界・軍部に隠然とした権力を保っていたのも、事実だからである。  だから、アラスカの件は、誰も触れることがなかったのである。 「まったくね、だから、秘密基地のままなのだが」白い息を吐き出して、四角い顔をした男が言った。「もっとも、どこまで秘密基地なのか、まったくわからんがね。ほら、今夜の哀れな獲物だ」  男は、どうもこの周囲に張り巡らされたわなに捕まったらしいウサギを、女のほうに無作法にグイと突き出す。  この男の面相は、この極寒の地には不似合いだろう。どうにも、南の海を我が物顔で遊泳する”人食い鮫”にしか見えないからだ。しかも、肉体も四角い。雪原なのに、今回のような多少の散歩程度の作業なら、長袖シャツでこなしてみせるからだ。  罠にかかったウサギのせいで、その基地とやらの警報が鳴ったので、出張っていったのだろう。 「ふん、この”なんちゃって不死身人間”が」若い女が、毒づくでもなく毒づく。  切れ長の”ネコ顔”の美女だ。この女も男も、白人ではない。東洋人だ。 「西城司令と呼んでくれっていっただろう、Bee」 「何が、司令だ。ただの守衛さんではないか」 「しかし、俺が見つけた」 「くだらん、基地だ」 「はん、お前も、この基地で生まれたくせに」 「だから、気に入らんのだ」ネコ顔美女は、吐き捨てるように言った。
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