新命路

9/11
前へ
/11ページ
次へ
 グランサタンとは・・マーが作り出した架空の魔物であった・・はずだ。  三流のオカルト雑誌を何冊も読破して、それらしくしつらえた”生贄の儀式”と魔法陣、そして”麻薬”によって、不死鳥結社の幹部たちに大魔王”グランサタン”の幻覚を見せたのだ。  普通であれば、その程度の子供だましにひっかかるような人間たちではないはずだが、マーの誘導と、そして、なによりも彼ら自身の内部にあった”欲”が、それを必勝の大魔王に見せたのである。彼らは容易く大魔王グランサタンの信徒に成り下がった。  その大魔王グランサタンは、宇宙を闊歩する百万年無敗の大悪魔”幻魔”の一人であると、名乗った。幻魔は、”この世界を破壊しつくすまでがんばる”と宣言しているのに、不死鳥結社の幹部どもは、それでも、その後の再生した地球の支配者になれると信じているのだ。核の業火に焼かれて、放射能が残留し猛威を振るう、そんな地獄のような核戦争後の世界で生き残ってそれを支配するなど、どう考えても沙汰の限りだと思うが、あの結社の幹部連中はまったく想像できない。自分たちが支配する美しい、天国のような世界が現上すると信じて疑わないのだ。  もっとも、彼らがそう信じているからといって、世界の側がそれを受けて天国に成る筋合いはどこにもないのに、である。  後になって思えば、ルーナ王女たち”大連盟”は不死鳥結社の幹部を米の上層部から排除する準備、水面下の活動をNYを中心にしてきたのだった。  本丸であるはずのアラスカ秘密基地を陥落させるのは、彼女たちにとっては、二の次以下の優先順位しかなかったのである。  ハリウッドの007映画ではあるまいし、優秀なヒーロースパイが単身で敵の秘密基地を陥落させて一件落着になるような陰謀は、陰謀でもなんでもないのだ。そういうエンターテイメントを望む向きには不本意だろうが、秘密本拠は、その陰謀の象徴的意味しか持たないのだ。  どんなに堅固に作ろうと、秘密結社の基地などは、たとえば米軍が本気になって攻め込めば、短時日で陥落するほどのものでしかない。  そう、ルーナたちがしようとしていた戦いとは、まさにそういう戦いだったのだ。  その意味では、ジョッシュは、あくまでもルーナの動きから目をくらませるピエロだったのである。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加