振り向いて じゃぱねすく

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数々の色彩豊かな着物が、パーティションから現れた。 「まぁ!なんてこと!」 「すてきな布だわ!お花畑みたいな柄よ」 カノンとアリアはポロネを囲んで感激している。 「お着物よ!江戸ではこのお着物を着るのよ!」 ポロネはミセス・ジョーンズを上気した表情で見た。 ミセス・ジョーンズは言った。 「そう、ポロネの言うとおり、着物よ。一見、ただの布のようだけれど、着るための決まりが幾つかあるの。それを今からポロネに覚えてもらわなくてはならないの」 「まぁ、大変よ、ポロネ」 カノンがウィンクした。 「そんなに難しいの?ミセス・ジョーンズ」 アリアが心配している。 ミセス・ジョーンズは首を横に振りながら 「知れば知るほど、日本人とは奥深い民族だとわかるわよ、ポロネ。着る物ひとつ、洋服のように簡単にはいかないのよ」 と言った。 「ドレスも毎日大変よ、コルセットは自分一人では絞められないもの。ねぇ?カノン」 アリアはカノンを見た。 カノンは頷いて 「そうね、大変よ、慣れるまでは特にね」 と笑った。 カノンとアリアは中世のヨーロッパを生きている。 博士が設立したAI養成学校を首席で卒業した二人なのだ。 卒業したAIは、自分の一番興味深い時代、国に、その時代の人として潜入するのである。 さまざまな時代、さまざまな国の文化や民族性を実際に見て、感じてくることで、生のデータを取ることが出来、AIが未来に生きる重要な情報を得ることが出来るのだ。 博士が夢見る未来には、ポロネたちのようなAIは必要不可欠なのだ。 「まず、何から覚えるの?ミセス・ジョーンズ」 ミセス・ジョーンズは笑顔で言った。 「まず、畳み方を覚えるのよ、着物の」 カノンとアリアは目を見合せて、笑った。
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