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「犬塚さん、2番の診察室にお入りください」
木曜の午前11時過ぎ、総合病院の待合室に響くアナウンス。
「やぁ、犬塚さん、私は院長の一ノ瀬です。お待たせして、すみません」
「いえ、先生、僕は待つのが得意ですから、気にしないでください。
この犬塚、『待てっ!』と、誰かに言われれば、何時間でも待っていられるんです」
「そうですか。お利口……いや、気が長いんですね。それはそうと、検査の結果が出ましたよ」
「先生、最近いまいち調子が出なくて……かと言って特別な痛みや苦しみは無いんです。ただ、何か違和感というか…」
「……で……しょうね。
まぁ、とりあえず、お座りください」
「はい!」
すぐに座る犬塚。
「それで先生、何かわかりましたでしょうか?」
「ええ、わかりました。犬塚さん、申し上げるのに、少し躊躇してしまうのですが、実は、今回の検査で、重大な事実が発覚しました」
「えっ?……そ……そんな……重大な事実なんて……先生、こ……困ります!
僕は、今、大事な時期なんです!
会社でも、期待されてるんです!
社長から、
『君は我が社の敏腕セールスマンだっ!』って、言われてるんです!
営業成績だって、ナンバーワン!
だし……。
そんな時に、重大な病気だなんて……そんな……」
「犬塚さん、興奮する気持ちはわかりますが、立ち上がらずに、まぁ一度、落ち着いて、お座りください」
「はい!」
すぐに座る犬塚。
「よろしい、では、お伝えしますね。
まず、先に言っておきますが、犬塚さん、あなたは、病気ではありません」
「え……?病気では……ない?」
「えぇ、そうです。
いたって健康です」
「オゥッ!ワンダホゥー!いやー、先生、驚かせないでくださいよー!まったくー!
僕は、ずっと健康第ワン!……いや、健康第一でやってきたんだから、これは当然の結果ですね!良かったー!あー、今日は、まさに僕が大きな危機を乗り越えた、貴重なワンシーン、となったぞ!
ありがとうございます!先生!
って……アレッ?……でも……健康って事は、重大な事実というのは?」
「えぇ、それは今からお話します。ですから犬塚さん、もう一度お座りください」
「はい!」
すぐに座る犬塚。
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