辞令交付式

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辞令交付式

 聖歴千八百年三月三十日。  今、僕は謁見の間に通じる扉の前に立っていた。  心臓が大きな音をたてて全身に響く。抑えようと何度か深呼吸をしても何の効果も無かった。しかし緊張してしまうのも仕方が無い。これから滅多にお目にかかれないカスミ様との謁見が始まる。記念日などには国全域に設置された大型スクリーンから映される映像でお姿を拝見できるが、それ以外、どこで何をしているのかさえ知ることはできない。    僕はふとしたきっかけでインモートランド唯一の軍隊の入団テストを受けて初めてで第一部隊に合格。そのことがインモートランド中に報道された。  国立軍隊にはランクがあり、下から順に準備生、警備隊員、第三部隊員、第二部隊員、第一部隊員、指揮官、防衛大臣、そしてカスミ様だ。全てにおいてカスミ様が絶対権力者であることは法に明記されている。国立軍隊も例外ではない。  その中でも第三部隊員以上の称号を持つ者は、「魔法」を使うことが許されている。  「魔法」とは、自らの体力を消費して現象を引き起こすことで、勿論普段の人間では出来ない。そこで目に見えない体力を「魔法」にするために、特殊な宝石を使う。どうやらその宝石カスミ様によって作られた結晶なんだとか、様々な噂を聞いたが、本当のことは誰にもわからない。  魔法や宝石に関してはとても厳重で、国立軍隊の訓練場の限られた施設内でしか使う事が許さず、宝石も持ち出し厳禁。もしその決まりを守れなかった場合、例外無く退団させられる。  国立軍隊の活動内容は基本、国の見回りや取り締まり、日頃の鍛錬などが主な仕事だ。だが十年に一度行われる戦争には第三部隊員以上の部隊が主に出撃するため、第三軍以上になることは国のため、そしてカスミ様のために尽くすことのできる名誉な仕事であった。そのため多くの軍人希望者が入団テストや昇格試験に身を焦がす。  さらに第一部隊はその中でも選りすぐりのエリートだけが入団できる軍隊であり、冴えた頭脳だけでなく、魔法を使うための多くの体力を必要とする難関軍隊だった。しかも一年に一回しか行われない入団テスト、および昇格試験で第一部隊員に合格するのはたった一人いるかいないか。僕の前に第一部隊員に合格した人、あるいは昇格した人は六年前に一人だそうだ。今回、僕がインモートランド中に驚かれたのは、言わなくても分かるだろう。
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