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「カスミ様の名により辞令を受けて参上致しました。この国の象徴ともなるカスミ様のお役に立てる事は大変光栄に思います。本日から第一部隊員としてカスミ様のために、そして国のために力を尽くして参ります」
そしてこの後、カスミ様から承認のお言葉を頂く。
「……」
なのにどうしてこんなにも沈黙が長いのか。カスミ様は、僕がひ弱そうな体格なので第一部隊に承認できないのか。もしカスミ様が承認しない場合のことなど、渡されたシナリオには書かれてなかった。
僕はどうしたらいいか分からず、ゆっくりと斜め前にいる富彦隊長に目で訴えた。富彦隊長の目は先ほどより鋭利になり、目が明らかに光っていた。
その目を見て思い出した。
……名を、名乗り忘れた……。
シナリオでは最初に名を名乗らなくてはいけなかった。自分が誰なのか、この国では名前は年齢よりも大事なものだ。名前さえ分かれば、その人の住所から家族関係まで全て分かる。名を名乗らないのと名乗るのとでは礼儀に雲泥の差がつくのだ。
すると、頭上から降り注ぐような、ささやかな声が聞こえた。
「そなたの名は……なんと言うのだ?」
恐る恐る顔を上げた。
下から覗き込むような自分のアングルから、カスミ様が目を細めて微笑んでいらした。さらに窓から差し込んだ一筋の光によってその神々しさは増していた。
「……秋人です」
あまりの輝かしさに目を奪われ、声すらも奪われてしまったようだ。自分が思った以上にか弱い声で名乗った。
「秋人さん。ようこそ、第一部隊へ。歓迎致しましょう」
そう言ってより一層美しい微笑みを向けて下さった。
あぁ、僕はこんなにも素晴らしい方にお使えすることが出来るんだ。
僕は心の底からこの国に生まれたことを感謝した。
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