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しかし、問題の続きには「解答の際、ホルベインステッチ、サテンステッチ、チェーンステッチを用いて刺繍しなさい。刺繍は上着のどこでも可」と、書かれてあったのでした。
これには来妃菜は頭が真っ白になります。いくら変わった小テストと噂はあっても、筆記だと思っていたからです。
「(どうしよう、ホルベインステッチとサテンステッチとチェーンステッチの意味が分からない……)」
と、来妃菜は心の中で焦っていました。これまで手芸はそんなにしたことがなく、ステッチのことも詳しくなかった彼女は刺繍針に糸を通してから手が止まってしまいます。
その間にも時間は刻々と過ぎて行きました。小テスト開始から四十分経った頃のことです。来妃菜の右斜め後ろの席に座っていた黒髪のツイストパーマの男子が立ち上がり、上着を持って担任の九分のところに行きます。刺繍が終わったのでしょう。男子の名前は大醍冨麗です。
みんなの手が一度止まりますが、すぐに自分の作業に戻りました。麗の行動が気になりますが、あまりじっと見るとカンニングになると思ったようです。
麗は担任の九分の前で桜の刺繍した上着を着て見せます。担任の九分は麗の桜の刺繍で花びらのサテンステッチがきれいで良かったか、合格の札をあげます。麗は上着を脱ぎ、自分の席に戻り、リュックの中にさっと上着をしまい、小テストが終わる時間になるまで読書を始めます。
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