ムカデと私の生活

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 そいつは、隙間さえあればどこにだって潜んでいる。それは今から十年以上も前のこと。お気に入りの鞄を床に置きっぱなしにしていた。その中に入っていた本を取ろうとした十歳にも満たない少年が、鞄に手を入れた瞬間。少年が大きく泣き出して両親が慌ててどうしたのかと尋ねると、彼の手がドラえもんの手のように丸く腫れ上がっていた。父親が鞄の中を見ると大きなそいつが身を潜めていた。それを見た少年よりも小さな少女。なぜ鞄を置きっぱなしにしていたのだと怒る父親。泣き叫ぶ少年。少年を宥め手当てしながらも、少女に心配気な目を向ける母親。全てを順に見てまた鞄に目を向けた。ごめんなさいと泣きながら少女は思う。「あんなきもちわるい虫が入ってたかばん、もうつかえない」その鞄が使われることは二度となかった。
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