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2.失せもの
さかのぼること今朝のこと。僕は兄さんと共に勤めている新聞社の支店に顔を出した。地方誌の出版が主なため、少人数の経営をしている。僕と兄さんを含め、両手の指で数えられる程だ。僕が上京してくるまではかなりドタバタしていたようだが今は安定してきて、僕は手が回り切らない細かな雑用を任されている。
「締め切りまでだいぶあるからなぁ」
「それと同じ台詞を前回も聞きましたけど、締め切り直前に死にかけてましたよね」
懲りない人だ。兄さんは届いた郵便物を机に広げ、くたびれたソファに背中から倒れ込んだ。
「あ。ついに亡くなったかー。リュウイ先生」
「リュウイ?」
「ああ、作家、詩人だよ。この辺りじゃ少し有名でね」
兄さんが僕にハガキを一通、投げて寄越した。
黒いハガキには訃報の知らせと、ありきたりな挨拶が書かれていた。
「お知合いだったんですか?」
「前にトバリさんの描いた寄稿を悪趣味だ、なんだって、手紙ですっごい言われたんだよねー。その後も何回か手紙がきていて、面白い人だったよ」
わざわざ手紙にしてくるほどの寄稿とは、一体全体どんな記事を出したんです。知りたいような、知りたくないような。
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