2.失せもの

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「ハクヤ君が元凶だな」 「はい。兄さんが元凶です」  いつものことですけど。  僕はニシナさんたちとカフェで少し遅い昼食を取っていた。フロアの真ん中では、店員がストーブに燃料を足しながら、常連と思わしき人と雑談を交わしている。  朝から空き家を巡っていた僕には、静かで温かい店内が天国に思えた。  コーヒーをすすったミモリさんが顔をしかめる。 「ニシナさん、リュウイなんて作家、知ってました?」 「4丁目の端にそこそこデカい家が建ってるだろ。黒い瓦の。庭に松が何本も植わってる」 「ああ! ありますね!」 「あそこがその先生のお宅だ。半年前、空き巣にあったらしく、それなりの被害額があったんだと。管轄は隣の部署だが、親類が怒鳴り込んできてたんで俺も覚えてる」 「へー」  ミモリさんと一緒に僕も頷いた。  僕がトバリさんに呼びされたのは、正しくそのお屋敷だ。  住宅街の真ん中に現れる高い生け垣。そこから覗く太い松の木。立派な門構え。黒い瓦屋根の一軒家。
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