1.猫探し

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1.猫探し

「ユキ。ユキ。どこだーい」  軒下を覗き込む僕。薄暗い床下からは冷気が漂っていた。めぼしいものもなく、無意識にため息が口をつく。  北風がだいぶ冷たくなってきた。晩秋、と言ったって、あと数日もすれば立冬。要は冬。だのに、なんでこんな所まできて探し物をしなきゃならないのか。僕は腕を擦る。 「おーい。そこの君。そこの、あー。山吹色の!」 「はい?」  呼ばれていたのは僕だ。顔を上げた僕の視界に入ったのは一回り年上の男性だった。背広のネクタイをきっちり絞めたその人は、懐から手帳を取り出して僕に見せる。中身を見た途端、僕は自分の顔が青ざめていくのが分かった。 「す、すいません。僕、猫を探していて」 「猫?」  僕はそんなに怪しい人物に見えたのか?  僕は慌てて立ち上がり、鞄の中から紙切れを取り出す。 「白い猫で『ユキ』と言う名前の猫の捜索を頼まれています。ちゃんと雇い主もおりますので」 「それで空き家をハシゴしていたのかい?」  人相描き、ならぬ猫相描きを見て彼は笑った。どうやら話しの分かる方のようだ。  僕は危うく知人の職場にお世話になる事案を回避した。 「良かった、良かった。近頃この辺りは空き巣強盗が多くてね。近くで聞き込みをしていたら、そこの奥さんに呼び出されたんでびっくりしたよ」 「すいません。すぐに出て行きますので……」 「君も大変だなぁ。この辺りじゃ野良猫なんてそこら中にいるじゃないか」 「そうですね……。似たような猫は見たんですけど……」 「白い毛に、赤い首輪をしている猫かぁ。山ほどいそうだな」 「首輪に『ユキ』と書いてありますので、もし見かけましたら、ここにお電話いただけますか?」  僕は念のため名刺を差し出した。彼は快く受け取ってくれる。 「ああ。構わないよ。俺も子どもの頃に飼ってた犬が逃げちゃってさー。そりゃあもう大騒ぎして」 「おい、ミモリ。今日は定時で帰るって豪語してたのはどこのどいつだ」 「うわあああ?! すいません、ニシナさん!」  おや?
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