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美月は加恋に憧れていた。身に着けるすべてを羨ましがって、並び立つために努力をしてきた。それが気が付くと妬みと嫉みに変わって、加恋の怪我をも望むようになっていた。そんな歪んだ心が背骨を曲げたんだって思ってた。復帰を待ってくれていた加恋の出来すぎた人間性にすら鼻につくほどすさんでいた。
美月の頬に流れた悔し涙。砂の上に落ちる雫が灰色に溶け込む。
「拭いてよ」
美月は鼻をすすって、濡れた頬を差し出した。海星が人差し指の背中で受け止めると、涙が加速するだけだった。
「抱きしめてよ」
求めに応じて抱きしめると、美月は鐘を鳴らすように頭を海星の胸に何度も打ち付けた。
「加恋のこと知ってるんだからね」
美月は体操着のことを言っていた。男子たちの冗談を真に受けていた。柄にもなく絡む訳だと納得した海星は、美月の首にマフラーを掛けた。逃れられないように手繰り寄せて唇を重ねるために。
「妹のだから」
それは美月の言い訳。唇に塗ったグロスのこと。今まで見せたことのない新しい表情を引き出してくれた甘い、いちごの香り。気取った薔薇なんかよりもよっぽど愛おしかった。
「そういえば、さっき何投げたの?」
「去年のネックレス」
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