新しい〇〇

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 カシミアのマフラーにスワロフスキーの手袋。日替わりのコートはオーダーメイド。いつもだったら1本あとの電車に乗ってくるはずで、思わず声をかけてしまったのは美月だった。  加恋は青葉が揺れる程度に手を振って立ち止まる。美月のところまで来ないのは、気遣ってくれてのことだと海星は思っていた。それでも加恋が立ち止まったのはドアの手前。ドアが開くたびに増えていく乗客に、加恋の意志とは無関係に押されて2人の前へ運ばれた。 「おめでとう」 「おめでとう」  美月と加恋がお互いに祝福を交わすのは、ふたりが同じ誕生日だから。共通点はそれだけじゃなくって、苗字も同じ佐藤で小学校から同じ学校で塾も一緒。家は隣同士とまではいかないけれど、習っていたバドミントンのおかげで親よりも、はるかに同じ時間を共有してきた。  それを聞いた海星は不可解だと思った。美月から加恋の話を聞いたことがなかったからだ。同じ部活だってことすら知らなかった。  この空間で成立している3人の会話の実態は、美月も加恋も自分たちの関係を海星に伝えているだけで、2人のやり取りは相槌程度。加恋がいつもより早い電車に乗ったのは、誕生日を祝ってくれる彼氏に会うためで。なんでこんな早朝なのかっていうのは、彼氏が加恋の生まれた時間に合わせて、プレゼントを渡したいと言ったから。その情報を聞き出したのは、もちろん海星からだ。 「見せてよ」  せがんだのは美月。海星には友人関係の偽装工作に聞こえた。それを加恋は断った。大したものじゃないとか、見せたら自分が恥じをかくだとか。表向きの謙遜にしか思えなかったけど、実際に見せようとはしなかった。  海星は見せてはいけない物だと考えて、校則で禁止されている物を思い浮かべた。それで思い当たった品物が1つ。美月にプレゼントしたネックレス。海星は冗談のつもりで問い詰めた。 「それは首にぶら下げる?」 「うん」 「それはハートの形をしている?」 「うん」 「そのハートは中がくり抜かれて、少し傾いた状態?」 「なんでわかるの?」  驚いた加恋がカシミアのマフラーの下からネックレスを取り出した。それは海星が想像していた通りの形をしていたけれど、想定外なことが一つ。色が違った。思い描いていたのはシルバーだけど、加恋のそれはゴールドだった。海星が美月へプレゼントで渡した物より、一つランクが上だった。
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