新しい〇〇

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 美月は何も言わなかった。この流れからすれば当然、美月のプレゼントを見せることになるはずだけど、加恋から見せて欲しいと求めてこなかった。きっと話の流れと美月の反応を見て状況を悟ったのだろう。  目的の駅に着いたところで加恋は先に降りた。そのまま加恋の背中が遠のいたのは、人ごみに阻まれたわけじゃなく、美月の歩幅に合わせたから。 「交換してこようか?」  美月は首を振った。これが欲しかったんだと言い張って、次のデートでつけるのが楽しみだって、海星の腕に抱き着いた。  無理しているには明らかで、そんなことは海星だってわかっている。わかっているからこそ美月が望むように納得してみせた。これ以上本心を追及したところで、あの時のようにケンカになるのが目に見えていたからだった。それは1年以上前のケンカで、2人の初めてのケンカ。  発端は美月が連絡もなしに学校を休んだこと。海星が心配して電話をすると、熱が出ただけだと言われた。どうも信用できなくて、バドミントン部の男子に尋ねると、昨日の部活中に背中を痛めて帰ったことを教えてもらった。  あらためて美月に電話をした。熱は嘘だってしぶしぶ認めたけど、ケガについては大丈夫の一点張り。心配だからと訴えても、美月が譲歩するそぶりは一切見せない。海星はやっぱりかって思って受話器から口をはずして、ため息をひとつ。  本来、美月は人並み以上によくしゃべる子で、頭の中にストックしてある話題を全部話し切らないと気が済まない性格。だけど、自分が悩み苦しんでいること、話すことで海星が心配してしまうことは一切言わなかった。それで声を荒げてしまった。その当時の海星は頼られない自分が受け入れられなかったからだ。 「大丈夫じゃないって言ったら、本当にダメになってしまいそうで怖いから」  電話越しの美月の声は渡された原稿を読むように冷静だった。これまで何度も頭の中で問いかけてきた問題で、自分自身で添削を繰り返してきた上での答えだからだ。
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